絵の家

今月の詩

12月の詩

「泣くひと」

                             伊藤 阿二子
夕暮れ時
男が 濠の松並木で
両腕で幹を抱き 泣いている
目をつぶり 口を大きく開けて 声は挙げず
乾いた幹を濡らしている
ひとは急ぎ足で家路を辿り 身を除けて過ぎる

悪事の片棒を担いだかのように
逃げるように辿り着いた 狭いひとりの部屋で
飲むように止めていた息を吐き
点けたストーブの熱の流れが空気を燻らす
部屋は柔らかに揺らぎ始める

通り過ぎるしかない景色が
繰り返し
脳裏をよぎる


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