伊藤 阿二子 川風が 刈り取られた青草を乾かし 辺りに干し草の匂いを運ぶ 空は まだ青く暮れ残り うっすらと耳のかたちで 南に半月が浮かんでいる 白い耳の下で 土手を走るひとが行く すれ違うと 汗と体温と鼓動の高まりが伝わってくる 空の 北から西へ四半分に 大きなクジラの形に灰色の雲が広がっている その頭のあたりに 低い処で時々赤い稲妻が走る クジラは明日 ひさしぶりの雨を連れて来るだろうか 空の耳は かすかな雷鳴を聞き取っているか 刈り残りの草叢では 虫も鳴き始めている
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