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9月の詩

「空の耳」

                             伊藤 阿二子

川風が
刈り取られた青草を乾かし
辺りに干し草の匂いを運ぶ
空は まだ青く暮れ残り
うっすらと耳のかたちで
南に半月が浮かんでいる

白い耳の下で
土手を走るひとが行く
すれ違うと
汗と体温と鼓動の高まりが伝わってくる

空の 北から西へ四半分に
大きなクジラの形に灰色の雲が広がっている
その頭のあたりに
低い処で時々赤い稲妻が走る
クジラは明日
ひさしぶりの雨を連れて来るだろうか
空の耳は
かすかな雷鳴を聞き取っているか
刈り残りの草叢では
虫も鳴き始めている


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